ジェーン・カンピオン監督のNetflix映画。タイトルの(犬の力)は、ドン・ウィンズロウ同様に旧約聖書からの引用。悪の象徴である(犬の力)からの解放を祈る詩篇。
常に、対立構造からくるヒリヒリする緊張が支配する映画だ。序章は、フィルとジョージの対立・対比構造。
中盤はフィルとローズの対立構造。そして三幕目は、フィルとピーターの対立構造…圧倒的なフィルの力にジョージとローズが結局何もせず逃げているのに対し、ピーターが最後に牙をむくのがスリリング。ドラマ的にはやや地味ながら、この緊張の持続が大きな魅力である。
フィルという人物の殻が徐々に剥がれていくのも見どころで、最初は単にワイルドなカリスマ暴君に見えていたけれど、自宅メインとなる中盤で実は名門大出のエリートで芸術素養もあり、ブロンコと出会って初めてワイルド化したのだという過去を匂わせる。
そしてピーターとの再会で、フィルのコンプレックスが露わになる。フィルもまた、ブロンコ以前はピーター同様のナヨナヨだったのだろう(ここで、元来線が細いカンバーバッチがキャスティングされている意味が出る)。
しかしピーターは、フィルの愛情に痛烈な答えを返して終幕となる。ピーターは明らかにサイコパスで、マシーンでしかない。
母ローズを守るという任務を全うしただけなのだ。これをフィルの悲劇と取るなら、犬の力とは、実はピーターのことだったのかも知れない。
この物語を深読みするなら(いつものように的外れなのはご容赦頂きたいけど)、「アメリカ的マチズモの終焉」だと思う。ジョージをヨーロッパ、ローズを第三世界に喩えるとなんかしっくりくるのは俺だけか。ピーターは、その三角関係から生まれ熟成された新たな価値観や脅威のメタファーなのかなと。
監督:ジェーン・カンピオン
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、キルスティン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィー、トーマシン・マッケンジー、キース・キャラダイン、フランセス・コンロイ
脚本:ジェーン・カンピオン
原題:The Power of the Dog
上映日:2021年11月19日
製作年:2021年
製作国:イギリス、オーストラリア、アメリカ、カナダ、ニュージーランド
時間:125分